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撮影に入る前の準備に長い時間かかったんですよ。原作には出てこない庄内弁をしゃべる練習や薪を割るシーンは大変で、何度も練習しました。殺陣のけい古は一刀流の先生と殺陣の先生にタグを組んでもらい、吉岡秀隆さん、小澤征悦さんと3人が教えてもらったんです。まず当時の武士がどうだったか、という心の内側から勉強しました。剣豪でも2人以上は切れませんと言われ、今までの剣豪のイメージがガラガラと崩れました(笑い)。吉岡くんとお互いに湿布をはる役をしながら毎日殺陣の練習。家は狭くて、剣を振ろうとしても天井に当たってしまう。公園で振っていたら5人の警官に囲まれて職務質問されたんです。30過ぎた男が恥ずかしい(笑い)。 とにかく侍役は初めてで無我夢中、宗蔵になりきるのにせいいっぱいでした。彼はひたすら強いのではなく、小澤さん演じる友人の狭間弥一郎のほうが強いと思っているので、戦うときはこれで終わるのかという恐怖感でいっぱい。でも、もしかしたら有利かもしれないという微妙な感じが難しかったですね。演じている方は、客観的には見られないので、山田監督やベテランのスタッフからいろいろアドバイスを受けました。 師匠から伝えられた秘剣鬼の爪は、家老を倒すときに使い、小澤さんと戦うときにはどうするか、監督もずいぶん悩まれたそうです。一刀流の先生たちと相談され、戦うときにふっと目を離し、相手がぎょっとしてひるんだ一瞬に体を一回転させて切ってしまうという技を使うので、お楽しみに。共演の松たか子さんは花のように華やかですし、堀家老役の緒方拳さんは彼に替わる人がいないというくらいにぴったりですよ。 山田監督はどこへ行かれるにも藤沢周平の文庫本を1、2冊は持っていかれるそうで、ページをめくれば同じ音楽が聞こえてくるとか。主人公は常に貧しい町人や武士で生きていくだけで一生懸命な人たち。権力があったり、野心満々な人たちではなく、市井で生きる人たちの側に立って世の中を見る。それは庄内の人たちの気風かもしれませんね。 「たそがれ清兵衛」の撮影は松竹の旧大船撮影所から京都の撮影所へ移ったばかり。山田監督は時代劇を撮るのも初めてならほとんどのスタッフが監督と仕事をするのは初めて。現場は苦しんだり、悩んだりすることが多かったとか。「鬼の爪」のときは、現場のスタッフと気持ちも通い合い、みんなが苦労しながら作り上げただけあって、いい作品になっていると思います。 ぜひ、ご覧になってください。
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